
長崎変成岩巡検 2025
2025年11月17日・18日の2日間、熊本大学特任教授・名誉教授 西山忠男先生の案内による長崎変成岩巡検に参加しました。東北大学からは、私(辻森)のほか、本学環境科学研究科の岡本敦先生と大学院生(沖野さん)、理学研究科地学専攻 断層・地殻力学グループの大学院生(竹縄さん)が参加しました(武藤潤先生が諸事情により参加できなくなったのは残念でした)。このほか、静岡大学の平内健一先生と学部4年生(窪田さん)、国士舘大学の大柳良介先生も参加され、賑やかな巡検となりました(写真)。

晩秋ながら2日間とも天候に恵まれ、特に初日は気温も高く、海岸沿いを歩くのがたいへん心地良い一日でした。西彼杵ユニットと野母ユニットにおいて、それぞれ蛇紋岩とそれに伴う交代岩、さらにその反応帯や変形岩などを見学しました。潮の引き具合も含めて露頭条件はほぼ完璧でした。 巡検後に岡本先生が「こんなに metasomatic な巡検は他にはないですね」とおっしゃっていたように、蛇紋岩に関係した交代作用の証拠を露頭でじっくり観察することができました。西山先生が長年にわたり蓄積してこられた知見に基づくプロフェッショナルな解説も相まって、現地では終始、有意義な議論で大いに盛り上がりました。

西山先生に長崎変成岩をご案内いただくのは今回が3度目でした。最初は大学院生であった1996年、その次がアメリカ生活から帰国して間もない2006年です。今回の巡検の見学地点を相談した際、西山先生は「この場所には昔、あなたを連れて行きました」などと、当時ご案内くださった場所をよく覚えており、いつ・誰を・どこに案内したのかをきちんと記録・記憶しておられることに感心しました。同時に、自分自身にとっても、これまでの長崎変成岩巡検の記録と、自分がたどってきた道のり、さらにはそれに伴う考え方の変化や学問的な興味の変遷などを振り返るよい機会となりました。今回も丁寧にご案内くださった西山先生に、改めて心より御礼申し上げます。
長崎変成岩は、沈み込み帯のマントルウェッジ直下における流体移動・物質移動を、海岸沿いの露頭で観察できる非常に優れたフィールドです。現地で直接手に触れることのできる露頭や岩石に見られる現象が、いかなる地質過程を経た結果なのかを考えるのはたいへん興味深く、地表に露出した高圧変成岩からミスリードすることなく、かつての沈み込み帯深部(前弧直下あるいは沈み込み途中のスラブ内部)で生じていたプロセスの一般則を見出そうとする挑戦において、どのような切り口が有効かを考える思考訓練としても格好の題材だと感じています。
【補記】ところで、西山先生には学生時代から、論文の別刷を郵送していただいたり、教科書をご寄贈いただいたりしてきました。そのなかでも『岩石形成のダイナミクス』(坂野・鳥海・小畑・西山, 2000, 東京大学出版会)は、これまで多くを学ばせていただいた教科書の一つです。先生はこれまでに3冊の小説も執筆されており、そのうち2003年の作品『オラビ瀬の洞門』(櫂歌書房)の「オラビ瀬」が地質図上のどこなのかを、今回の巡検で初めて知ることができました。